毎日、実験室やデスクの前で「これ、何のためにやっているんだろう……」と頭を抱えている技術者の皆さん、こんにちは。
突然ですが、皆さんは仕事の中で「越権行為(独断でのスタンドプレー)」をしたことがありますか? 「そんなことしたら怒られる」「クビになる」と思うかもしれませんね。
でも、私がサラリーマン現役時代、世界最強の半導体ジャイアント(TI社)と戦っていたとき、私は会社の正式な発注書もないのに、3億円の製造装置の設計変更を、独断でメーカーにお願いして裏で設計してもらっていたことがあります。今考えれば「お前、頭おかしいんじゃないか?」と言われても仕方のない大越権行為です。
しかし、この「能動的な暴走」こそが、最終的に製品の歩留まりを「90%以上」というバケモノ級の数字に引き上げ、世界を塗り替える大逆転劇を生む一手になったのです。
今日は、私が現役時代に経験した泥臭いストーリーから、「言われた通りに動く歯車」を辞めた瞬間に、技術者の人生がどれほど面白くなるかをお話しします。
1. 嫌がらせの「ネガティブキャンペーン」を科学で殴り倒す
2000年代初頭、世の中はハイブリッドカー「プリウス」の登場で沸いていました。 当時、私たちが開発していたのは、投影機の心臓部となる「液晶パネル」。有機物と無機物を組み合わせた、まさに“ハイブリッド構造”の次世代パネルでした。
当時、市場を独占していたのは世界最強のTI(テキサスインスツルメンツ)社。彼らは液晶の弱点を突き、「液晶は有機物、すぐ壊れる」という強烈なネガティブキャンペーンを世界中で展開していました。
当時は本当に悔しかったです。でも、彼らの言うことは「事実」でもありました。当時の液晶は、光と熱、そして湿気に確かに弱かったのです。
だから、私たちは「ぐうの音も出ないほど、圧倒的に良いものを作って黙らせる」ことだけを考えました。毎日毎日、膨大なデータを凝視し、原因を突き止め、分子レベルで水分を完璧に弾くバリアを完成させたのです。良いものを作れば、世界は必ず評価してくれます。私たちの新しい高耐久性パネルが発売された結果、TI社のネガティブキャンペーンはピタッと止まりました。
2. 「未来の景色」が見えたなら、許可を待たずに動け
その量産化の最中、事件は起きました。 工場へ納入する3億円の装置(1台目)が完成した直後、私は確信していました。「上流工程の生産能力を考えれば、絶対に近いうちにもう1台、3億円の装置が必要になる」と。
それと同時に、現場のデータから「ある課題」に気づいていました。 液晶パネルの画質を左右する不具合を防ぐには、「上基板と下基板を、まったく同じタイミング、同じ真空槽の中で同時に成膜(1バッチ化)しなければならない」ということ。
しかし、1台目の装置の収納数は「5枚」。これでは奇数なので、上下のペアが綺麗に揃いません。
私は、何の権限もない一人の技術者でした。しかし、メーカーであるS真空(株)のエンジニアたちの元へ、こう言いました。 「内部ユニットを、5枚から『6枚同時収納』に設計変更して裏で進めてください。会社からの正式発注は絶対に来ますから」
真空機器メーカーの技術者たちも、私の熱意と「物理的な正しさ」に賭けてくれました。会社の正式発注が下りたのは、その約1年後。すでに裏で設計が進んでいたため、装置は驚異的な「超速」で納入され、ラインの歩留まりは驚異の90%以上を叩き出しました。
3. お金以外に得るものが、あなたの「本当の財産」になる
もし私が、上司に「2台目の仕様を6枚に変えたいのですが、稟議を通していいですか?」とお伺いを立てていたらどうなっていたでしょう。きっと会議を重ねるうちに時期を逃し、世界シェアNo.1の座は他社に奪われていたかもしれません。
他人の指示を待つだけの「受け身の働き方」は、楽かもしれませんが、つまらないし、失敗した時に他人のせいにしたくなります。
しかし、
- 現場のデータを徹底的に見つめ、「技術の本質」を見極める
- 「こうすれば絶対によくなる」という未来の景色を自分で描く
- リスクを恐れず、能動的に、先回りして動く
これをやった瞬間、仕事の面白さは100倍に跳ね上がります。自分の打った手が、自然の物理法則を味方につけ、目の前の巨大な装置を動かし、世界中の人を感動させる製品になっていく。この興奮は、何物にも代えがたい快感です。
技術者として生きる中で、お金(給料)をもらうのは当たり前です。でも、能動的に動いた人だけが、お金以外に得られるものがあります。 それは、「修羅場を共にした社内外の仲間からの絶対的な信頼」であり、「自分の力で世界を変えたという自負」です。これらは、会社を辞めても、定年を迎えても、あなたの血肉となって一生消えない「本当の財産」になります。
毎日苦悩している技術者の皆さん。 怒られるのを恐れて縮こまるのはもったいない。目の前の技術の本質を掴んだら、ほんの少しだけ、能動的に一歩を踏み出してみませんか?その先に、あなただけの「最高に楽しいエンジニア人生」が待っていますよ。


コメント
先週、工場のライン停止トラブルでパニックになり、藁をも掴む思いでこちらの「非公開参拝フォーム」から愚痴のような相談を送らせていただいた者です。
住職からすぐに「物の名前を見るな、物理の本質を見ろ」と熱いお返事をいただき、手元にある全く別の治具を加工して代用したところ、見事にラインが再起動しました。
こちらに相談したこと、もちろん、社内にバレることもなく救われました。マニュアル人間の私にとって、一生モノの技術OSをいただいた気分です。本当にありがとうございました!