- 【直面した怪奇現象】 私が某製紙会社に新入社員として赴任したばかりの頃。25歳も年上のベテラン社員に連れられ、工場内を見て回っていた。 古紙からインクを抜くための装置「フローテーター(脱墨処理槽)」の前に来たとき、先輩がため息をついた。大きさも形もバラバラな処理槽が並列で動いているのだが、「各処理槽のパルプ流量のバランスを合わせるのが本当に大変で、いつも能力にムラが出て困る」と言う。
- 【凡百のエリートの迷宮】 「25年も長く現場にいる大先輩たちが『大変だ』と言っているんだから、これは職人芸的な勘や経験が必要な、とてつもなく難しい問題なんだろう」と思い込み、思考を停止して先輩と同じように泥臭い苦労をただ引き継いでしまう。
- 【マクガイバー住職の思考の筋道】
- 形状から物理を見抜く: 私は先輩の愚痴を聞きながら、処理槽の出口側、パルプ流路出口形状をじっと凝視した。なんだ!そこには「V字型」の切れ込みがあるじゃないか。これを見た瞬間、学校の教科書の1ページを思い出した。「これは『三角堰(さんかくぜき)』の原理そのものじゃないか」
- 基礎の公式を現場に持ち込む: 「三角堰」は流量を測るための水理学の基礎知識だ。一度家に帰り、翌日、私は「三角堰の流量計算表」を職場へ持参した。液面の高さを合わせれば、誰でも正確に流量を管理できるという、「三角堰」の原理と使い方を、25歳年上の先輩たちへ丁寧に説明したのだ。
- 知らないだけ、という真実:忘れ去られていた「三角堰」の 運用が表を用いて始まると、あれほど現場で苦労していたパルプ流量管理は簡便になり、各処理槽の能力ムラも、綺麗さっぱり消え去った。彼らにとって「管理が大変」だったのは、物理的な限界のせいではなく、単にその原理を「知らないだけ」だったのだ。
- 【授けた最後の一手】 現場の「経験」や「苦労話」を盲信せず、教科書に載っている「基礎の物理・数学の公式」という冷徹なものさしを現場に当てはめて、ブラックボックスを解剖する。
- 【結末】 どれほど優れた設備や技術があろうとも、それを動かす人間が原理を伝承していなければ、現場には何の「益」ももたらさない。 工場から「その技術の本質を知っている人」がいなくなること。それこそが、職場の『荒廃』を意味するのだ。
⛩️ 住職から迷える子羊たちへの説法:前任者の「秘伝のタレ」を疑え
前任者から「この設備(またはプログラム)はややこしくて、いつも調整が大変なんだよ」と、呪いの引き継ぎを受け、毎日その火消しで胃を痛めている子羊よ。
ベテランや前任者の「大変だ」「苦労している」という言葉を、そのまま信じて怯える必要はまったくない。 彼らが苦労しているは、技術のせいではなく、「基礎的な原理原則を勉強せず、勘と気合だけで回しているから(知らないだけ)」だけかも知れないからだ。
引き継ぎを受けたら、まずはそのシステムが、物理の、あるいは数学の「何の教科書に載っている現象か」を徹底的に調べ、学問の系列(分野、部門、系)に当てはめてみては。 彼らがバケツで水を汲むように泥臭くやっている作業の裏には、必ず「三角堰」のような、一発で解決できる美しい公式が眠っている。
過去の遺産をただ引き継ぐのではなく、学問の基礎の光を当て、「原理、原則(法則)」と現場の技術との翻訳家として、その技術を彼らにわかりやすいよう、訳してあげなさい。


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