ちょっとここらで、技術の話や図面の計算から離れて、温かいコーヒーでも飲みながら、人生の雑談をしましょう。
今回、私がこのテック寺でこれまでのエンジニア人生を振り返り、何本かの物語を書き出してみて、自分自身でもまったく自覚していなかった「驚くべき事実」に気づかされました。
私が社会人になりたての頃、わずか3年間しか勤務しなかった某製紙会社での経験が、その後の液晶パネル開発や、いま私が挑んでいる自転車開発の設計思想にまで、驚くほど深く、決定的な影響を与え続けていた事です。
このことに気づいた時、私は思いました。 「社会人になって、なりたての数年間というのは、人生においてとてつもなく大切なんだな」と。
いま、若い人たちの間で、よく「本当の自分」や「やりたいこと」を探すために『自分探しの旅』に出る、という話を耳にします。 しかし、解剖学者の養老孟司先生は、かつてこんな風に仰いました。 「自分探しの旅なんて、無駄です。なぜなら、当の自分がどんどん変化していくからです」
この言葉は、本当に真理を突いています。 社会人になりたての数年間というのは、まさに、ものすごい熱量とスピードで「どんどん変わっていく自分自身」を、必死に追いかける時間そのもののはずです。毎日新しい壁にぶつかり、新しい知識を詰め込まれ、昨日とは違う自分へと激しく変化(システムアップデート)している最中なのです。
それなのに、その目の前で刻々と変わりゆく自分の足元(現実)から目を背けて、どこか遠い異国や職場の外に「あらかじめ完成された、確固たる自分」が落ちていると思い込んで探しまわる。 「変わりゆく自分について行けなくて、どうして確固たる自分を見つけられるのでしょうかね?」
旅に出ても、あなたを変えてくれるのは移動距離ではありません。あなたを変えるのは、いま目の前にある泥臭い現場の熱量です。
そこで悩み、ハックし、変わっていく自分を必死に追いかけた足跡の中にしか、本当のあなたの輪郭(アイデンティティ)は現れません。たとえそれが、わずか3年の短い時間であったとしても、そこで必死に生きた記憶は、30年後、40年後のあなたを支える強固な背骨になります。
自分を探すために遠くを見るのは、もうやめて、今現在の貴方を激しく変化させてくれている目の前の現象(現実)に、そして目の前の仕事に、100%の力でぶつかってみる。変わっていく自分の脳(データベース)を信じて、必死にしがみついてみるのはいかがでしょう。
ほら、コーヒーが冷めないうちに、もう一度、あなたの「足元の現場」へ戻って、変わりゆく自分を追いかけようではありませんか!


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